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「良かったですね」
「はい」
若干慣れたとはいえ、やはり女性と長い時間会話をするのは居心地が悪い。
じゃあと言ってその場を立ち去ろうとしたが、その時、ぐうっと小さな低音が鳴った。
高橋さんは、はっとした表情を見せた後に顔を赤らめて視線を落とす。
俺はそれが彼女のお腹の音であることを認めた。
「飯でも、食います?」
口に出して、はっとした。
俺は何を言っているんだ。
「あ、いや」
やばい、取り消さないと。
そう思ったのに、俺が言葉を続けるよりも先に、「ぜひ」と彼女は微笑んだ。
「え」
まさか承諾されるとは思ってもみなかった。
どうしよう。
自分から切り出しておいて、ここで退くわけにもいかない。
「あ、えと、じゃあ、その辺入ります?」
俺は視界に入ったレストランを適当に指差した。
自分でも、何をしているんだと思うが、こうなってしまっては仕方がない。
高橋さんと連れ立って入ったのは、手頃な価格の、それにしてはやけに洒落たイタリアンレストランだった。
毎日のように通る道のはずなのに、こんな店があったこと自体知らなかった。
三階のガーデンテラスに案内される。
気温が高いせいか、頬に当たる風が気持ち良かった。
高橋さんはそのスレンダーな見た目にしては、随分と量を注文したので驚いた。
「すみません、朝から何も食べていないもので」と恥ずかしそうに笑う彼女は、やはりどこか幼さを感じる。
不思議な人だと思った。
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