第六章

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注文を済ませて一息つくと、正面に座る高橋さんとバッチリ目があった。 そんな必要はないはずなのに、ドキンと心臓が跳ねる。 真奈美の顔が浮かんで、罪悪感に苛まれた。 直樹の「兄貴、ダメだよ」という言葉が頭の中でリピートされる。 途端、早くこの場を去らないといけないという衝動に駆られた。 高橋さんは、そんな俺の気持ちをよそに「弟さんは、大丈夫なんですか?」と穏やかな表情を見せる。 「あ、はい。今日は友達と遊びに行ってて、夕飯も食べてくるって」 「そうですか」 高橋さんは一瞬目を伏せたかと思うと、「すみません、ぜひなんて言って」と何故だか俺に対して謝罪をした。 「え」 「加護さん、私のこと苦手ですよね」 「いや、そんな」 「それくらい、わかります」 彼女は、柔らかい表情で、それでもきっぱりと言い切った。 「あ、いえ、高橋さんがというか、女性全般若干苦手と言いますか……」 二十八にもなって、あまりにガキっぽい発言に、自分でも嫌気がさした。 というか、この件に関して謝る必要があるとすれば明らかに俺の方だ。 本当に、なんで飯でもなんて言ったのだろうか。 高橋さんは、一瞬きょとんとしたような表情を見せた後に、「なるほど」と言って微笑んだ。 以前、陰りのある表情が大人っぽいと思ったのなんて嘘のようだ。
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