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高橋さんは、小さく目を見開いた後、穏やかな表情で言葉を落とした。
「優しい人です。それに、とても、孤独な人。幸せになって欲しいと願っていたんですけど、結局私が壊してしまいました」
また、意味がわからない。
どういうことだろうか。
ただ、高橋さんがどれほど深く【彼】を愛しているか、それだけは表情からはっきりとわかった。
「好きだって、言わないんですか?」
彼女は、目を伏せて、小さく首を横に振った。
先ほど彼女が発した、「そんな資格はない」という言葉が聞こえたような気がした。
「加護さんは、彼女さんとは長いんですか?」
「え」
突然、自分の話題になって驚いた。
「あ、はい。もう、十年になります」
高橋さんは少し目を大きくして、「じゃあ、高校時代から?」と問うてくる。
「はい。部活の、後輩なんです」
「いいですね。加護さん、部活は何を?」
「剣道です」
高橋さんが「”らしい”ですね」と言って微笑むので、何だか居心地が悪い。
「お強いんでしょう?」
「何故です?」
「そう、見えるから」
俺は何も答えなかった。
戦績について、自慢するつもりはない。
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