第六章

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「加護さんの方から?」 一瞬何を意味しているのかわからなかった。 一拍置いて、それが告白を指すことを認める。 「あ、真奈美です」 高橋さんは、少し目を開いて、「そうなんですか」と驚いたような声を出す。 「高校最後の団体戦で、大将任せてもらったのに、二本取らなきゃいけないところで一本しか取れないで、負けて、帰りに泣いてたんです、一人で。そしたら、何故か、真奈美がいて、いきなり告白されて」 当時を思い出して、自然と笑みが溢れた。 こんなことを人に話したのは初めてだ。 何故、こんなにペラペラと。 「素敵ですね」 「あの時は、意味不明だと思いましたけどね」 「いえ、素敵です」 高橋さんは、ゆっくりと、それでいてはっきりとそう言った。 穏やかだが、芯の強い人だと思った。 料理が運ばれてきて、会話が止まる。 こんなちゃんとした場所で食事を摂るのは久しぶりだ。 今度、どこか、もっといいところに真奈美を連れて行こう。 そんなことを考えながら、料理に手を伸ばした。 「おいしい」と、高橋さんが微笑む。 俺は、それに答えることなく、ただ料理を口へと運んだ。 「ちょっと、失礼します」 席を立って、トイレへと向かう。 真奈美と話したいような気分だったが、今日は夜勤と言っていたっけ。
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