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用を足してトイレのドアに手をかけた瞬間、誰かの悲鳴が聞こえた。
すぐさま外に出てあたりを見回す。
異常はすぐに見つかった。
男が高橋さんの胸ぐらを掴んで持ち上げ、テラスの柵に押し付けていた。
俺は弾かれたように走り出す。
「誰だよ、あいつ!なぁっ!」
軽率だった。
ストーカーが止まったなんて、勘違いだったのだ。
ただ、気付かれたことに気付いて、巧妙になっていただけだった。
どうして、そんなこともわからなかったのか。
男が両の手をさらに高く上げる。
高橋さんの上半身が柵の高さを超えていた。
「やめろっ」
全力で叫んだ。
あと少し。
たどり着いた時には、すでに彼女の体は柵の向こうへと投げ出されていた。
俺は訳も分からず、柵を乗り越えて空中へと飛び出した。
手を伸ばす。
届け、と全力で念じた。
そこで、記憶がぷつりと切れた。
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