第六章

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高橋さんは無事なのか。 それに、あのストーカー男はどうなったんだ。 というか、今何時だ。 様々な疑問が頭の中を巡る中、青緑の手術着に身を包んだ男が病室へと現れた。 その姿を見た瞬間、いつぞや真奈美がカッコイイと話した『夏目先生』であることがわかった。 なるほど、端正な顔立ちだ。 いわゆるイケメンという単語よりも端正という言葉を使いたくなる。 あまり頻繁には手入れされていないであろう少し伸びた黒髪が、その激務ぶりを物語っていた。 「こんにちは。夏目宗佑と申します」 彼は穏やかな笑みを見せて名乗った。 誠実そうな反面、底が見えない不気味さも感じられた。 「こんにちは」 俺は警戒を崩さないまま、小さく頭を下げた。 「お体の調子はいかがですか。どこか痛いところなど」 自らの痛覚と、施されている処置から察するに、右足と腰の骨が折れていることには気付いていたが、俺は努めて表情を変えないようにしたまま、「いえ、大丈夫です」と答えた。 詰まらない強がりだということは十分に承知していたが、何故だか、この人に弱みを見せてはならないような気がした。 「丈夫なんですね」 バカにした様子はない。 おそらく単純な感想だ。 「それだけが取り柄みたいなもんですから」 「そんな」と首を振る。 穏やかな人だ。 それは間違いないだろう。 俺は、一体何を疑っているのだろうか。
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