第六章

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「あの、高橋さんは?」 「一緒に運ばれた女性ですね。大丈夫ですよ。まだ意識は戻っていませんが、ほとんど無傷です。加護さんが守ってくださったのでしょう」 「いえ」と答えながら、俺は大きく安堵していた。 良かった。 ひとまずそれさえ確認できれば、最低限の目的は達した。 その他の情報はおいおいわかるだろう。 「加護さんの怪我の状況と今後について」 夏目医師はそこで言葉を止めた。 そして、「説明しようと思ったんですけど、後にします」と言って笑うから頭の中に疑問符が飛ぶ。 その直後に、病室に真奈美が駆け込んできたことで、事情を理解した。 「須藤さん、あんまり走っちゃダメだよ」と真奈美に対してやんわりと注意をした彼は、そのまま病室から出て行った。 真奈美と二人、その場に残された。 「将晴」 真奈美が俺の名前を呼びながらベッドのすぐそばまでやってきた。 言いたいことが色々とあったはずなのに、すぐそこに、手を伸ばせば届く距離に真奈美がいるというただそれだけで、すべてが吹っ飛んだ。 俺は真奈美を抱き寄せた。 「将晴?」と彼女が疑問符付きの声を出したが、無視をした。 ただ、彼女に触れていたかった。
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