第七章

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「あのさ、夏目と渡辺ってどうしたの?」 食べ始めるや否や、俺は本題を切り出した。 柳瀬はぼうっとした表情で何も答えないからどうしたのかと思ったが、しばしの間を置いて独り言のように「ああ、渡辺って翔太のことか」と呟くから、驚かされる。 「そこからかよ」 「いや、だって、誰も呼ばないから」 柳瀬の言う誰もというのは一体どの範囲をさしてのことなのかわからないが、なるほど確かに夏目も渡辺のことは翔太と呼んでいた。 「大学生で名前呼びの方がレアだと思うけど」 女子はまだしも、男子なんて中学生くらいから苗字じゃないか。 名前で呼ばれていたのなんて田中とか佐藤とか、そんなありふれた苗字を持つものだけだ。 まあ、その理論でいけば渡辺が翔太と呼ばれるのも道理ではあるのかもしれないが。 「んー」 そうかなあとでも言うように不満そうな声を出す柳瀬だが、表情は無を貫いているから不思議だ。 「そこは本題じゃないからいいだろ」 こいつのペースに付き合っていたら話が全く進まないと判断した俺は、先を急いだ。 「まあいいけど。で、宗佑と翔太が何って?」 「あの二人、冬休み前は常に一緒だったのに、最近、渡辺が夏目のこと避けてるから、どうしたのかと思って」 「ああ」 柳瀬は、まるで、そんなこと?とでも言うように反応が薄い。
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