第七章

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「喧嘩したから」 「喧嘩?」 大学生にもなって、久々にそんなフレーズを聞いた。 「うん、冬休みにスキー行ったんだ」 いまいち話が繋がらない。 変な話し方をする奴だと思った。 「夏目が渡辺の女を寝取ったってやつ?」 冗談のつもりだったのに、さらりと「ああ、それ」という答えが返ってくるから、危うく口にしていたオムライスを吐き出してしまうところだった。 おいおい、あの噂マジなのかよ。 夏目はクラスの中ではわりと浮いた存在で、あまり持ち上げられてはいないが、あのスペックだ、多分聞いて回ればそれほど評価は低くないだろう。 しかし、夏目がその気になれば彼女に立候補する女なんかいくらでもいるだろうに、全くそういう話が出ないのは、単に興味がないからかと思っていたが。 理想が高かっただけなのだろうか。 「まあ、寝取ったは語弊があるけどね」 俺もさすがに言葉通りには受け取っていないが、でも。 「しかし、渡辺と夏目に取り合われるってすごいな。そんな良い女なの?」 柳瀬は相変わらずのぼけっとした表情のまま、わずかに首を傾げて、「別に」と愛想のかけらもない返答をよこす。 別にってことはないだろう。
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