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「それにしてもお前が文転して起業するとはな」
「今更?何年前の話だよ」
渡辺は可笑しそうにははっと笑った。
「仕方ねえだろ、進振り以来会ってねえんだから」
進振りというのは進学振り分けの略称で二年生の中頃に自らの学部を決める制度だ。
狭き門ではあるが理三以外から医学部へ進学することも可能だし、逆に渡辺のような文転組も存在する。
と言っても、理三から法学部に進学した者は俺の知る限りでこいつ一人だけだ。
何年かに一人は存在するようだが、少数派であることには変わりない。
「そっか、お前四年の時のクラス会部活のミーティングかなんかで来なかったんだっけか」
「そ。で、前回はそっちが来なかった」
「仕方ない、大事な取引だったんだ」
二十代の半ばで大事な取引、か。
俺もそんなことを言ってみたいものである。
「みんなはどうか知らないけど、俺、結局お前の文転の真相聞いてないんだよね。それも今更か?」
「別に、真相も何もねえよ。ただ、ああ、俺の進むべき道はこっちじゃないな、って思っただけ」
エリートのお坊ちゃんかと思いきや、突然それら一切を捨てて自分の能力で世界を切り開いていくから驚かされる。
本当にすごい奴っていうのは、こういう奴のことを指すのかな。
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