第七章

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「お前が突然勉強し出したときはどうしたのかと思ったよ」 「進振りの点が足りなかったんだから、やるしかねえだろう」 「それで実際、行けちゃうところがさすが渡辺だよな」 最近では理系からの法学部もかなりレベルが落ちてきたようだが、当時はそれなりの点数を持っていなければ進めない道だったのだ。 一年生の前期の点数があまり良くなかった渡辺にとっては、大変だっただろう。 「まあ、天才ですから」 「お前が言うと冗談に聞こえないな」 「冗談だよ。一応」 「一応かよ」 ははっと笑う様子は相変わらずのスマートさだ。 「ノーベル賞狙うとか言ってなかったっけ?」 「あー、言ってたね。ま、あんなのはただの親への反抗だよ」 「反抗?渡辺の親って医者だっけ?」 「そ。父さんの代で開業して、結構儲かってんの」 「それで跡取りになれって?」 「ま、そんなとこかな」 知らなかった。 まあ、実家が金持ちなのは何となくわかっていたが。 「でも、理三まではちゃんと入ったんだ」 「それだって、別に医者になりたかったわけじゃねえよ。ただ、一番偏差値が高かったから受けたんだ」 全国の受験生に怒られてしまいそうなセリフをさらっと口にするから憎めない。 「ふーん、そんなもんかね」 「そんなもんだよ」 当時はそれほど仲良くもなかったのに、不思議と話が続く。
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