第七章

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「なんかきっかけとかあったの?」 「ん?」 「文転」 「ああ。いや、別に何ってことはないんだ。ただ、臨床医になるべきは夏目のような奴だし、研究って言ったって、柳瀬くらい好きじゃないと続かないもんだよなあと思って」 なるほど。 あの二人と比較したのか。 「柳瀬って今どうしてるの?」 「まだ大学に残ってるよ。今博士過程」 「そっか。院か」 「うん。ノーベル賞はあいつに任せた」 「はは、柳瀬なら取れるかもな」 研究に没頭していてご飯を食べ忘れたと言っても、あいつなら信じる。 「連絡、取ってるの?」 話の流れとしてはそれほど逸脱してはいないはずだが、その質問をするのに、少し声が上ずった。 「柳瀬?それとも夏目?」 「どっちも」 「柳瀬は、たまにね。二人で居酒屋行ったりもするんだぜ」 「へえ」 あんなことを言ってはいたが、やはり柳瀬にとって渡辺はちゃんと友達だったんだと思う。 きっと、夏目にとってだって。 「夏目は?」 「いや、そっちは全く。あいつのことだから多分連絡先変わってないと思うんだけど、どうにも勇気がね」 渡辺がわずかに表情を曇らせる。 「そっか」と答えた俺の声も自然とトーンが落ちた。
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