75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
渡辺は俺をじっと見つめたかと思うと、「ねえ、三池は恋って何だと思う?」と質問を返してきた。
「恋?」
俺は黙った。
それは、俺には答えることが難しい質問だった。
二十七にもなって恥ずかしい話だが、女性と付き合ったことは一度もなかった。
当然ながら童貞である。
好きな人はいたが、所詮叶うことのない恋だ。
恋と呼ぶのも、おこがましいレベルかもしれない。
ただ、ずっと、見ていただけ。
恋って何?
その答えを知りたいのは、俺の方だった。
「相手の幸せを、願うこと」
違う。
それは、恋じゃない。
いや、それを本当に実行できる人間がいるなら、それは恋かもしれない。
でも、俺のそれは恋じゃない。
俺が願っているのは、相手の幸せではなく、自分の平穏だ。
そんなことは、ずっと前からわかっていた。
「随分、紳士的な答えだな」
「嘘だよ。さっきのは、自分への言い訳。俺にその質問に答えるほどの経験値はない」
「経験値、ね」
「お前は?」
「ん?」
「渡辺にとって、恋って何?」
渡辺は、俺とは経験値の桁が違う。
こいつの答えに、興味があった。
最初のコメントを投稿しよう!