第七章

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渡辺は俺をじっと見つめたかと思うと、「ねえ、三池は恋って何だと思う?」と質問を返してきた。 「恋?」 俺は黙った。 それは、俺には答えることが難しい質問だった。 二十七にもなって恥ずかしい話だが、女性と付き合ったことは一度もなかった。 当然ながら童貞である。 好きな人はいたが、所詮叶うことのない恋だ。 恋と呼ぶのも、おこがましいレベルかもしれない。 ただ、ずっと、見ていただけ。 恋って何? その答えを知りたいのは、俺の方だった。 「相手の幸せを、願うこと」 違う。 それは、恋じゃない。 いや、それを本当に実行できる人間がいるなら、それは恋かもしれない。 でも、俺のそれは恋じゃない。 俺が願っているのは、相手の幸せではなく、自分の平穏だ。 そんなことは、ずっと前からわかっていた。 「随分、紳士的な答えだな」 「嘘だよ。さっきのは、自分への言い訳。俺にその質問に答えるほどの経験値はない」 「経験値、ね」 「お前は?」 「ん?」 「渡辺にとって、恋って何?」 渡辺は、俺とは経験値の桁が違う。 こいつの答えに、興味があった。
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