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「欲望」
「え?」
渡辺のことだから、てっきりドラマや小説のような美しい言葉が出てくると思っていたのに、あまりにも直接的なそれに、俺は驚かされた。
「会いたい、話したい、触れたい、そういうの、全部抑えられなくなって。理性が吹っ飛ぶような、そういうやつ」
「渡辺には、そういう経験があるの?」
渡辺はにやっといたずらっぽく笑って、「今」と答える。
「え?今の彼女ってこと?」
「そ」
「どんな子?」
渡辺にそこまで言わせるんだからきっとすごい完璧な子なんだろうなと思ったのに、一言目が「んー、美人じゃないね」だったものだから、俺は言葉を失う。
「頭も、あんまり良くないし」
「え」
「でも、よく笑う。あと、俺のこと、好きって言ってくれる」
「渡辺?」
「結局さ、絶対、手放したくないって思ったら、それが答えなんだと思うんだよ。あの時は、そうじゃなかった。ただ、それだけだよ」
そう言ってふっと笑った渡辺は、今までのどんな表情よりも恰好良かった。
「すげえな、お前」
「何が?」
「色々」
「意味不明なんだけど」
「意味不明でいいよ」
渡辺は、やっぱり渡辺だ。
本当に、すごいと思う。
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