第七章

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「結婚とか考えてるの?」 俺の問いかけに、にっと笑った渡辺は俺の前に左手の甲をかざす。 その薬指に光る指輪を見て、思わず笑みがこぼれた。 「マジかよ」 「マジです」 「渡辺って最強だな」 「どうも」 重苦しいことを考えていたのが、一気に全てどうでも良くなった。 にやけた顔が締まらない。 「そっちは?」 「え」 「さっきの。お前が幸せを願っている子とは?」 急に真顔に引き戻される。 ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。 「それ聞く?」 「聞くさ」 「ほんと、敵わないな」 これまで誰にも話したことがなかったが、不思議とこいつには話してもいいような気がした。 「ちっちゃい頃から長いこと好きだったんだけど、結婚しちゃった」 渡辺がわずかに瞳を大きくする。 「最近?」 「三年前」 黙った渡辺が考えていることくらいは、俺にもわかる。 「未練がましい?」 「まあ、率直に言って」 「はは、ちょっとはフォローしろよ」 「すぐ三十になるぞ」 「容赦ねえな」 ここまではっきり言われると清々しい。 もっと早く、誰かに話したら良かったかな。
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