第七章

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「どうかな?長年の片思いとじゃ、釣り合いとれないと思うけど」 小さく首を傾げた渡辺は、あの頃と何も変わっていない。 やっぱり、いい奴だ。 お前がいいならいいと言いつつも、俺のことを考えて言葉を発してくれているのがよくわかる。 こいつに愛される女は、きっと幸せだ。 「いいよ。のった」 「よし」 満足そうな笑みを浮かべた渡辺は、ポケットからすっとスマートフォンを出したと思うと、夏目宗佑の名前をこちらに向けながらその電話番号をタップした。 「え、おい」 「善は急げっていうでしょ」 呼び出し音がかすかに聞こえるが、それが繋がる気配はない。 やがて、留守番電話の案内サービスの音が流れた。 渡辺は、「ちぇ、残念」と呟いてから、画面に向かって、「おい夏目、今度飲み行くぞ。電話しろ」と荒い声を発して通話を切った。 その行動力には、本当に驚かされるばかりだ。 「はは、やっぱりすごいね、お前」 「そ?」 その笑顔が心地いい。 「俺も、電話かけた方がいい?」 「いいよ。お前の方から女に電話かけて、もう諦めるから!って宣言するのもおかしいでしょ」 「それくらい、してもいいけどね」 「かけたいなら止めないぜ」 俺たちは顔を見合わせて笑いあった。 八年前、あの頃、もっとこいつと話しておけば良かったと、心の底からそう思った。
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