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「あの、彼を探している経緯を伺っても?」
俺の質問に対して、少し警戒したような表情を見せた彼は、言葉を選ぶようにして「その方の彼女のご家族から頼まれまして」と返してきた。
「彼女」
そうか、あいつに、そんな存在がいたのか。
いや、いたとしても不思議ではない。
しかし、だとすれば。
「その、彼女さんの連絡先を教えてもらうことはっ」
俺は勢いに任せて、言葉を吐いた。
しかし、何かが引っかかる。
あれ?
「あれ、でも、なんで」
どうして、彼女がそいつを探すんだ。
そもそも、彼女なら当然すでに死んでいることも知っているはずだろう。
どういうことだ。
俺の疑問を悟ったのか、男は「実は」と先ほどよりも一段階低い声を発し、「その彼女、すでに亡くなってるんです」と続けた。
「え」
「だから」
「あ、いたっ」
生徒の声が飛び込んできたことで、会話が中断される。
「センセー、もう保護者の人結構集まってるよー。早くー」
「ごめん、すぐ行くっ」
まずい。
もうそんな時間か。
俺は腕時計を見ながら、急いで答えた。
「あの、後ほど、連絡先渡します」
昨日、もう連絡はしないと誓ったばかりなのに、まさかこんなに早く破られることになるとは思ってもみなかった。
しかし、この事実を彼女に告げないわけにはいくまい。
もしかしたら、八年前の兄の死の真相がわかるかもしれないのだから――
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