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俺が彼女こと一麻子に初めて恋心を抱いたのは、小学四年生の夏だった。
麻子は幼い頃から俺と徹と輝が遊ぶときにいつもくっついて回っており、はじめはそれを疎ましく思っていた。
年下の少女なんて足手まとい以外の何物でもないと思っていたわけだが、麻子はそんなやわな娘ではなかった。
結論からいえば、麻子は驚くほど明朗快活で聡明だった。
どんな遊びをするにも麻子は確実に役にたったし、むしろ新たな刺激的な遊びを考案する術に長けた少女であった。
それでも、小学四年生の、あの夏までは、ただの役に立つ子分のように思っていた。
「ねえ、秘密基地に先回りして、お兄ちゃんと輝くんのこと、脅かさない?」
そんなことを言いだすのは、いつも決まって麻子の役目だった。
秘密基地というのは近くの廃工場のことで、俺たち四人はそこを内緒の遊び場としてよく利用していた。
彼女はお菓子の買い出しで遅れる二人を騙そうと持ちかけてきたのである。
他の三人に比べると俺はそこまで悪ガキではなかったが、それでも、この時の麻子の提案には何かワクワクするようなものを感じた。
「いいよ。やろう」
「やった。じゃあ、二人が来ないうちに早く行こう、航平」
徹と輝が俺のことを航ちゃんと呼ぶのに対して、麻子は俺を航平と呼んだ。
普通逆ではないのかと言いたくなるが、もう長い間そのように呼ばれているので、特に違和感はなかった。
輝がくん付けなのに対して、俺のはことは呼び捨てにしているのもよくわからない。
「おう」
俺は麻子とともに秘密基地に向かって走った。
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