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「航平、こっち」
「ちょっと待てって」
廃工場の鉄骨をすいすいと登っていく麻子は、まるで猿みたいだ。
本当に女かよと突っ込みたくなる。
「あそこ登ろう。そしたら、入り口のとこ見えるから、お兄ちゃんたち来たのわかるよ」
麻子は、俺たちの入ったことのない場所を指して言う。
そこは、足場が不安定で危険だからという理由で、徹が立ち入るのを禁じた場所だった。
「おい、あそこはやめとけって。徹がダメって言ったろ。あいつが正しいよ」
「大丈夫だって」
俺の制止も空しく、麻子はどんどん整備されていない鉄骨を登っていく。
「おい、麻子」
仕方なく、俺も麻子について、鉄骨に手をかける。
「航平、早く。お兄ちゃん来ちゃう」
麻子がところどころ穴の空いたボロボロの鉄板の上を、ひょいとその穴を飛び越えながら進んで行く。
ついていくだけで心臓に悪い。
「麻子、頼むからもうちょっと慎重に」
その言葉を言い終わらないうちに、「きゃっ」という麻子の短い悲鳴が聞こえる。
「麻子っ」
鉄板の穴に足元を取られて、麻子がバランスを崩す。
俺はすかさず手を伸ばして、麻子を支えた。
「ふぅ。だから、危ないって言ったろ」
ほっとしたのもつかの間、俺たちの足元の鉄板がぐらりと揺れる。
「うわっ」
俺は、片手で麻子の手を取ったまま、もう片方の手を横の鉄骨に伸ばす。
傾いた鉄板は、少しでも動くとそのまま崩落してしまいそうな危うさを孕んでいた。
俺と麻子は、側方の鉄骨をつかんだ手に体重をかけることでなんとかバランスを保っていたが、それも長くは持つまい。
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