第七章

35/60

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「航平」 いつも強気な麻子の声が震えていた。 自分だって怖いと思っていたはずなのに、不思議なことに麻子の様子は逆に俺を奮い立たせた。 俺が、しっかりしないと。 「大丈夫だよ」 何の根拠もない発言だったが、とりあえず強がるくらいの気力はあった。 「航平」 「ばかっ」 麻子が俺の方に向かって少し動いたことで、バランスを失った足元の鉄板が崩落する。 俺と麻子は一緒になって、下へと投げ出された。 「航平っ、航平っ」 必死に俺を呼ぶ麻子の声が聞こえた。 「ん……」 目を開けると、眼前に麻子の泣き顔があった。 「大丈夫っ?大丈夫、航平?」 ゆっくりと体を起こす。 若干背中が痛かったが、骨に異常があるようなことはなさそうだ。 意識もはっきりとしている。 落ちた瞬間は死ぬんじゃないかと思ったが、先ほどまで自分たちがいた場所を見上げてみると、たいした高さじゃないことがわかる。 何だか、テンパって馬鹿みたいだ。 「大丈夫?ねえ、航平」 「ん?ああ、俺は全然。麻子は?大丈夫か?」 一応聞いてみたが、体勢的にはどうやら俺が麻子の下敷きになっていたようで、見るからにたいした怪我はなさそうだ。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加