第七章

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「私は大丈夫だけど……」 そう言いながら、麻子の頬をぼろぼろと涙が伝った。 俺はぎょっとして、「何?どっか痛めた?」と聞いたが、麻子は必死に首を振った。 「なんだよ、そんな怖かったのかよ」 いつも気丈に振舞っていただけに、麻子の涙を見るのは初めてのことで、俺は動揺してしまった。 「違うもん」 麻子は泣きながらも、はっきりと俺の言葉を否定する。 「何が違うの?怖かったわけじゃないってこと」 「怖かったけど、違うんだもん」 「何?どういうこと?わかるように言ってくれよ」 「だって、航平が、航平が死んじゃったらどうしようかと思って」 「俺?」 麻子の涙の原因が自分だとわかって、俺は驚いた。 「航平が死んじゃったら、そしたら」 麻子の嗚咽が激しくなる。 「縁起でもないこというなよ。俺が死んだりするもんか」 「本当に?」 「もちろん。俺が麻子より先に死んだりするもんか。麻子が心配だっていうなら、もう怪我だってしないよ」 「ほんと?」 麻子の表情が明るくなる。 俺は麻子をいつも通りに戻そうと、必死に言葉をつないだ。
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