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「本当だよ。俺は病気も怪我もしない。だから、麻子は俺のことなんて、何にも心配しなくていいんだ。自分のことだけ考えてろ」
「航平?」
「自分のこと、精一杯考えてろ。そんで、困ったら俺を呼べ。いつでも助けてやる」
とにかく無我夢中だった。
自分が歯の浮くようなセリフを口にしているということに気付いたのは、随分後になってからだ。
いつもなら、こんな事を言えば笑って茶化してくるような麻子も、この時ばかりは俺の言葉を素直に受け止めた。
そうして、「航平、かっこいい」と笑ったのだ。
どきんと、心臓が跳ねる音が聞こえた。
まだ瞳に涙を溜めたままの麻子が口にしたその一言が、妙に俺の胸の中に残る。
「俺がかっこいいのなんて当たり前だろ」
そんなキャラじゃなかったはずなのに、無理やり笑いにしてその場を誤魔化した。
「バカ、調子乗りすぎ」と言った麻子はいつも通りだった。
あの日から、俺の中で麻子が『幼馴染の少女』ではなく、一人の『女』になったのだ。
それから、中学高校大学と年月が経てど、俺は変わらず彼女のことを思い続けた。
麻子が俺の気持ちに気付いたのはいつのことだろう。
俺がわかったのは高校二年生の頃だったが、本当は、もっとずっと前から知っていたのかもしれない。
麻子は、勘のいい子だった。
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