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「ラクロスやりなよ。強いんでしょ?」
大学入学時に、中高やっていたバスケを続けるか、それとも先輩から誘いを受けていたラクロス部に入るか迷っている俺に、彼女がそう言った。
「ラクロス部入って、そんで、日本一取ったらいいよ」
まるで、コンビニでプリンでも買ってくるような言い方だったが、それで本当に入部してしまう俺も俺だ。
練習はキツかったし、辛いこともいっぱいあったけれど、それでも、麻子が応援に来てくれた試合には必ず勝った。
四年生の秋、日本一を取ったら告白しようと心に決めていたが、結局、それが叶うことはなかった。
いつか言わなきゃと思っているうちに、気付けば麻子に彼氏ができ、瞬く間に結婚が決まってしまった。
その知らせを聞いた時、俺は落胆しただろうか。
いや、おそらくしなかった。
ただ、恋の終わりはあっけないものだと思っただけである。
そう思ったにも関わらず、その後も終わることができないでいたのだから、俺も相当なダメ男だ。
渡辺には、麻子が自分を利用しているようなことを言ったが、麻子は俺を利用してくれているのでもあった。
自分に未練がある男を呼び寄せて、世話を焼かせようというのだから、端から見ればとんでもない女だ。
旦那が俺のことをどこまで知っているのかも疑問だが、しかし、それでも、やはり麻子は俺のことを「利用してくれている」ように思えてならない。
俺という人間に一番の価値を与えてくれるのは、いつでも麻子だった。
しかし、それももう終わりだ。
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