第七章

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早川はもともとそれほど成績がよくなかったはずだが、この半月で目に見えて勉強に向ける姿勢が変わってきた。 部活を引退すると成績がぐんと良くなる生徒がままいるが、おそらくは彼女もその部類であろう。 期末テストの成績が出るのを楽しみにしている生徒の一人だ。 早川に声をかけるタイミングを考えながら廊下を歩いていると、偶然にも四組の教室から早川夏帆が出てきた。 慌てた様子と向かう方向から察するにトイレに行こうとしているようだ。 朝のホームルームの前に行っておけと言いたいところだが、今はそんなことはどうでもいい。 「早川」 「何ですか?今急いでるんですけど」 慌ただしい口調でそう答えた早川だが、そんなことは見ればわかる。 「昼休みか放課後時間取れない?お姉さんのことでちょっと」 お姉さんというワードを出した瞬間に、目に見えて早川の表情が強張った。 それから「昼休み、理科準備室行きます」と、先ほどとは打って変わった真面目な口調で答えた。 「わかった」 ぱたぱたと上履きの音を立てながらトイレへ駆け込む早川の後ろ姿をじっと見つめた。
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