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「ごめん、遅れたっ」
麻子は言葉のわりに悪びれた様子もなく、待ち合わせ時刻の五分後にやってきた。
俺の隣の椅子を引いて、そこに座る。
「もう、何か頼んだ?」
「いや、まだ」
「そう」と答えたかと思うと、そのままウエイターを呼びつけ、メニューも開かずにハンバーグを注文した。
それから、ほらあなたたちもという風に俺と早川を見るものだから、俺たちもそれに続いて食事の注文をする。
いつものことながら、マイペースな人だ。
早川が若干面食らっているのが、表情からよくわかる。
「ごめんね、遅れちゃって。内海麻子です。よろしく」
「あ、早川夏帆です。今日は、ありがとうございます、わざわざ」
「ううん、わざわざ来てもらったのは私の方だから。ごめんね、呼びつけて」
「あ、いえ」
当たり障りのない会話だが、いつも通りの麻子に対して早川は完全に恐縮しきっている。
何だか可哀想になってきた。
「それで、話っていうのは?」
麻子は何の前置きもなくいきなり話の核心へと切り込んだ。
「あ、えっと、私のお姉ちゃんが、八年前に妊娠しまして、その出産がうまくいかなくてそのまま死んじゃったんですけど、その相手というか、当時のお姉ちゃんの彼氏を探していまして」
「うん」
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