第七章

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「手がかりがうちの高校の制服のボタンとお姉ちゃんの手帳にあった『わんちゃん』って文字しかなかったので、見つけるのは難しいかなと思っていたんですけど、その、『わんちゃん』っていうのが、麻子さんのお兄さんのことなんじゃないかってお伺いして」 早川は俺が昼休みに聞いたのとほとんど同じ内容の説明をした。 それに対して麻子は表情を変えない。 「『わんちゃん』か。懐かしいね。付けたの、航平だよね」 「そうなんですか?」 早川が驚いた表情で視線を俺に移す。 「あ、うん」 はじめは同席するつもりはなかったのだが、早川に懇願されて付いてきた俺は、突然話を振られて少し驚いた。 「中学入った直後だったか、クラスで徹の名前、ニノマエってのがすごく珍しいって話になって。俺とか輝、ってそいつも幼なじみなんだけど、俺たちはさもう慣れてたから、あんまり感じてなかったんだけど、中学って他の小学校からきてるやつもいっぱいいたから、やっぱり初めてのやつからすると珍しいもんなんだなと改めて思って。まあ、そんな感じで徹の名字の話をしてて、そんときに徹が調子乗って『一って書くのカッコいいだろう。名前にナンバーワンって入ってんだぜ』って言ったんだ。それに対して俺が、『でも、ワンちゃんって言ったらなんか犬みたいだよな』って言って、そっから」 と言っても、別にそれがあだ名として定着したというわけではない。 ただ、徹の人懐っこいような部分が少し犬っぽいんじゃないかという理由から、忘れた頃に登場しては、冗談でのからかいの文句となっていたのだ。 まさかそれが、高校になっても使われていたなんて、全く知らなかった。
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