第七章

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「十一月、二十日のことです。学校に、姉が病院に運ばれて帝王切開になるという電話がかかってきました。その時、母は会社を休んでいました。無論、姉のことを気にかけたためです。私は電話をもらってすぐに病院へ駆けつけました」 早川はそこで言葉を切って、ゆっくりと「姉が亡くなったのは、私が病院についてすぐのことです」と続けた。 「それから、両親は何とかして子供の父親を探そうとしたんですが、手がかりが少なすぎるのと、学校がうやむやにしようと必死で……」 可哀想だが、そうだろう。 在校生が、妊娠し、出産時に死亡というのはあまりにも問題が大きすぎる。 「あの、私も、徹さんのお話を聞いても、いいですか?」 「お話を、と言っても、あんまり語るほどのストーリーもないんだけど」と首を傾げた麻子は、「お兄ちゃんは、輝くんって幼馴染と一緒に東大の学園祭に行ったの、航平に会いに」と俺の方を小さく指差す。 「え、三池先生東大なんですか?」 「何、航平大学隠してたの?」 真面目な話題の最中、突如として二人の視線が俺に向く。 居心地が悪いことこの上ない。 「積極的に広めてないだけで、別に隠しちゃいないよ」 事実だ。 自分から言いふらすものでもないだろう。 麻子は「ふーん」と言いながら、たいして興味もなさそうに早川の方に視線を戻した。
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