第七章

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「そんで、その帰りに線路に落ちて死んじゃった」 おい麻子、と思わず声を出しそうになる。 簡潔すぎる話と、その言葉選びに早川が絶句するのがわかった。 「あの、いつですか、その、亡くなった日?」 早川は、ゆっくりと噛み締めるように言葉を落とした。 早川が求めているのは、姉と徹のどちらが先に亡くなったのかという情報だろう。 当然だ。 「十一月二十四日」 麻子は何でもないことのように、さらりとその日付を口にした。 早川の黒目が一回り大きくなる。 先ほど、早川はお姉さんが亡くなったのが、十一月二十日だと言った。 徹の死ぬ、四日前。 「後追い自殺」 麻子は表情を変えることなく、そんなことを口にした。 それは、俺も早川も真っ先に考えたことであったはずだが、俺たちは何も言わなかった。 「で?あなたはどうしたいの?」 「え」 麻子の突然の問いかけに、早川は黙った。 「聞いての通り、もうお兄ちゃん死んじゃってるんだけど、何かお望み?」 「おい、そんな言い方っ」 俺は思わず口を挟んだ。 あまりに配慮がない。 「黙って」 麻子の声が冷たく響いた。
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