第七章

52/60

75人が本棚に入れています
本棚に追加
/507ページ
「どうしてほしい?私か親が、あなたの家まで謝りに行こうか?」 「そんなことっ」 早川が必死に首を振った。 「そんなこと、してほしいわけじゃありません」 「じゃあ、どうしたらいい?あなたはなんのために、お兄ちゃんを探してたの?」 「私はただ、本当のことが、知りたかっただけで……」 早川が俯くのを見ながら、胸が痛んだ。 どうして麻子はこんなに冷たいことを言うのだろう。 「じゃあ、もう満足した?私たち、これ以上のこと何も知らないの」 早川は、もう一度顔を上げて麻子を見たが、自らの発すべき言葉は見つかっていないようだった。 「お姉ちゃんのこと、救えなかったのを、お兄ちゃんのせいにしたかった?残念だね、もう、いなくて」 「おいっ」 俺が麻子の肩を引いて、制止したのと、早川が立ち上がるのが同時だった。 「ご迷惑おかけしてすみませんでした。もう、関わりません」 早川が鞄の中から財布を出す。 一切手を付けていない食事の代金を出そうとする早川に向かって、麻子が「これくらいおごるよ」と言ったが、早川がそれを無視して千円札をテーブルに叩きつける。 「ありがとうございました」 「おい」 出口に向かって歩き出した早川を追いかけようとしたが、麻子が「航平が追いかけても何にもならないよ」なんて言うものだから、所在をなくしてしまった。 早川が立ち去った後の空間を呆然と見つめる。 何で、こんなことに。
/507ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加