第七章

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「航平、早く食べたら?私そろそろ行くよ」 いらないと言おうとして、すんでのところで思いとどまる。 小学校の頃、担任だった女性教師が言った「食べ物を粗末にしてはいけない」という言葉が浮かんで、俺は目の前に置かれた料理を腹の中にかき込んだ。 俺が食べ終わるよりも先に麻子が席を立つものだから、俺は大急ぎですべてを流し込んで、その背中を追った。 「おい、待てよ麻子」 「何?」 「何、じゃないだろう。何だよあれ。早川が可哀想だろう」 「どうして」 どうしてって。 「そりゃあ」 「お兄ちゃんのせいで姉が死んだのに私が謝罪しないから?」 「そんなこと……」 「航平も、お兄ちゃんが子供の父親だと思ってるんだ」 「え」 だって。 そりゃあ、そういう話じゃ……。 「違うのか?」 「さあ、どうだろうね」 「おい」 「私は、違うと思うよ」 麻子は、驚くほどきっぱりと言い切った。 一体その自信はどこから来るのか。
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