第七章

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「どうして」 「お兄ちゃんは、そんなことしないよ」 そんなことというのが、避妊をせずに性行為をすることなのか、それとも相手のご両親の元に父親だと名乗り出ないことなのか、はたまたすべてを承知した上で後追い自殺という道を選択することなのか、俺にはわからなかった。 しかし、そのどれも、俺には断言することができない。 麻子に見えていた徹は、一体どのような男だったのだろうか。 「あれは、事故なのか」 「ううん。自殺だったと思うよ」 「え」 一体どういうことなのか。 話の行き先がわからない。 「何?どういうこと?」 「私にもわからないよ。でも、私が一番わからないのは、お兄ちゃんが、あの日、あの場所を選んだこと」 俺の前をずいずいと歩いていた麻子は、ぴたりと止まって俺の方を振り返った。 気付けば、すでに病院は目の前にあった。 「あそこに、何があったの?」 麻子は俺の答えを待つわけでもなく、そのまま病院へと入っていく。 俺はその場に取り残された。
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