第八章

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高三だったら、もうすぐ見れなくなるな。 同い年か一個上なら、まだ。 そんなことを考える自分に、何を考えているんだと、もう一人の俺が突っ込みを入れる。 確かに、それがどうしたのだという話だ。 彼女と俺の年の差なんて、まったくもってどうでもいい。 だって、彼女は俺の存在すら知りはしないのだから。 冬になって、木曜日に彼女を見なくなった。 それまでだっていつも見ていたわけではないからはじめは偶然かとも思ったが、二ヶ月間一度も見かけないとなるとさすがにそれは必然だった。 やはり高三だったのだろうか。 もう通常授業がなくなってしまって、時間が変わっているのだろうと納得する。 そもそも、俺が納得しようがしまいが、そんなことはどうだっていいことなのだ。 そのまま冬は終わり、春になる。 そうして、ある木曜日、塾から出てくる彼女を見た。 驚いたのは、それが木曜日だったからではない。 彼女が高三ではなかったということがわかったからでもない。 彼女の隣に、誰か男がいたからだ。 遠目にもかなり端正な顔立ちであることがわかるその男は、彼女と楽しそうに会話をしながら駅の方へと歩いて行く。 その日は、珍しく授業が延長して、いつもよりかなり時間が遅めだった。 そうして、俺は木曜日に彼女を見かけなくなった理由を悟る。 彼氏、かな。 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれなかったが、俺には確かめようもないことだった。
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