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「そんな人、いいの?」
「ええ、頼んだら、来てくれるんだけど」
俺の中で、天才型は教えるのが下手だという思いこみがあった。
だから、勉強を習うにしても、もう少し普通の人がいいと思った。
しかし、それでも、本当に頭のいい人間とはどういうものなのか見てみたいという好奇心が勝った。
「じゃあ、ちょっと、お願いしようかな」
それから話はとんとん拍子に進んで、五月の頭、その人は家へやってきた。
「こんばんは」
耳ざわりのいい柔らかな声でそう言って扉を開けた人の顔を見て、俺は声をあげそうになった。
それは、彼女の隣にいた男に他ならなかったからだ。
「はじめまして。夏目宗佑と言います」
そう言って微笑んだその人は、遠目に見ながら抱いていた印象の数万倍かっこよかった。
「あ、はじめまして。倉科晃多です」
俺の挨拶はどもっていて、自分でも、どこか挙動不審だったように思うが、夏目と名乗った男は、そんなことを気にした様子もなく俺に笑い掛けた。
「君が、晃多君か。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いしますっ」
ホモだったつもりはないが、それでも、下手すると惚れそうだった。
夏目宗佑は、それくらいかっこよかった。
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