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「宗佑さんも、去年高三だったんですよね」
「もちろん」
なんだか不思議な気分だ。
当たり前だが、俺が一年後に宗佑さんのようになれているはずはない。
というか、どれだけの月日を経ても、この人の足元にも及ばないだろうと思った。
「彼女とかいたんですか?」
思えば、俺はこの質問をするタイミングをずっと窺っていたのかもしれない。
忘れていたはずだったのに、宗佑さんを見てから、彼女の存在がまた気になり始めていた。
「いないよ」
「ほんとですか?宗佑さん、絶対モテるでしょ」
単純に驚く。
あの人とは、ただの友達だったのだろうか。
そうだとしても、一度も彼女がいたことがないとは思えない。
この人の魅力に惹きつけられない人なんて、いるはずがない。
「まったく。彼女いない歴十九年だよ。学校じゃあ、ほとんど空気だったから、俺」
「え?」
自然と声が出た。
空気って。
「友達、誰もいなかったから。いつも本ばっかり読んでる暗い高校生だったの」
「信じられないです」
本心だった。
確かに、宗佑さんが本を読んでいる構図はすぐに頭の中に浮かぶし、読書家だったことが意外だとは思わないが、しかし。
自分の目の前にいる夏目宗佑という人からは、そんな雰囲気は微塵も感じられなかった。
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