第八章

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「俺、中学受験で私立に入っちゃったこともあって、ひどい話ですけど、そいつのことなんて忘れてたんですよ。思い出すこともありませんでした。けど、自殺したって聞いて、一気に現実に引き戻されました。俺は受験で抜けちゃいましたけど、うちの小学校、ほとんどのメンツがそのまま同じ中学に上がるんで、逃げ場がなかったんだと思います。噂ですけど、中学では、いじめがエスカレートして結構ひどいことをされていたと聞いてます」 宗佑さんはじっと俺を見つめたまま、何も言葉を発しなかった。 「俺に何ができたのかって言われると、正直わかんないんですけど、でも、何か、何かできることあったんじゃないかって、何かがちょっとだけでも違っていれば、あんな終わりにならなかったんじゃないかって、未だに思うんです」 いつもおどおどして、少し、容量の悪いやつだった。 父親の事件よりも以前から友達が少ない方だったのは間違いない。 でも、あの事件を境に、何かある一線を越えてしまったこともまた、間違いなかった。 廊下を歩いているときに、彼のクラスから「人殺し」という言葉が手拍子に乗せられて聞こえてきたのを、よく覚えている。 不快な気持ちになったことは確かだが、しかし、俺がそれを止めることはなかった。 自分には関係のないことだと思っていた。 関わりたくもなかった。 その結果、取り返しのつかない事態となってしまった。
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