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宗佑さんの表情が一瞬苦痛に歪んだように見えたが、それは俺の勘違いだったかもしれない。
それから、宗佑さんの言った、「それでも許されないのが、殺人だ」という言葉には不思議な重みがあった。
「そうですよね。矛盾していると、自分でも思います」
犯人の人殺しは許そうとするのに、犯人を殺すのはダメなんて、これが矛盾ではなくて一体何なのだろうか。
それでも、俺は自分の考えを改めようとは思わなかった。
俺の中だけの思想だ。
誰に迷惑をかけるわけでもない。
「晃多はどうして医学部を?」
「なりゆきって言ったら、本気で目指しいてる人に失礼ですかね。でも、本当にそんな感じなんです。両親が俺に医者になってほしそうなのを感じ取って、自然に」
「文転する気はない?」
宗佑さんが発した言葉に、ただ驚いた。
「まさか」
当然のようにそう答えたが、どうやら宗佑さんは冗談を言ったつもりはないようだった。
「本気ですか」
「もちろん、決めるのは晃多だ。晃多の人生だからね。お前が医者になりたいって言うのなら、俺はもう何も言わないよ」
まるで、本当は医者になんてなりたくないんだろうと言われているような気分だった。
そして、そんなことはないとは、言えなかった。
「ごめん、余計な御世話だったかな」
宗佑さんは申し訳なさそうな表情を見せたが、俺の頭の中はすでに先ほどの宗佑さんの発言に占められていた。
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