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「今文転して、間に合いますか?」
何を言っているんだと、自分が自分に言った。
すでに高三の七月だ。
遅すぎる。
「俺は、晃多が頑張れるなら、文一にだって入れると思うよ」
宗佑さんは俺の目をまっすぐに見てそう言った。
冗談やでまかせで言っているのではないということは、すぐにわかった。
「文一って、東大ですか」
まさか。
当然だが、俺はもともと理三を目指していたわけではない。
自分が東大を受験するなんて、考えたこともなかった。
「十分に勝算のある話をしているつもりだけど」
「何故です」
「晃多は数学が得意だから」
それは事実だ。
俺が全教科で一番得意なのは数学で、次いで英語。
足を引っ張っていたのは理科、特に化学だった。
文転するにしても二次に数学のあるところというのは最もだが、しかし。
「一橋とかは……」
「一橋は社会が一科目でいいから、より可能性は高いね。司法試験の合格率も高いし、いい学校だと思うよ」
宗佑さんは事も無げに答えた。
どうやら宗佑さんの中では俺の文転がそれなりにリアリティーのある話なのだということに対して、徐々に実感がわいてきた。
それをあり得ないと感じる自分の方がおかしな人間のように思えるから不思議だ。
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