第八章

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「世界史の論述もわりと形になってきたね」 「そっちはまだまだです。あと二ヶ月死ぬ気でやります」 まだまだというのは事実だが、それでも俺の社会の成績向上は学校の教師や友人の誰もが目を見張る速度だった。 その理由が宗佑さんにあることは明らかだったが、「理三の家庭教師のおかげ」と言っても誰も信じないだろう。 それでいい。 宗佑さんは俺だけのヒーローだ。 「宗佑さんの名前って、夏目漱石に似てますよね」 授業を終え、帰り支度をする宗佑さんに話しかけた。 以前から思っていたことだが、このタイミングで口にしたことにこれといった理由はなかった。 「初めて言われたよ」 「本当ですか?漢字違いますけど、音だと一文字違いじゃないですか」 「確かに。漱石と言えば『月が綺麗ですね』って知ってる?」 「月?」 「そう月だ。夏目漱石がI love youをそう訳したと言われている」 俺は、意味がわからず首を傾げた。 I love you. 月が綺麗ですね。 なんのこっちゃ。
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