第八章

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「日本人の奥ゆかしさを表したとされていてね、未だにちょっとおしゃれな告白として残っているみたいだよ」 「そんなの、相手が知らなかったら通じないじゃないですか」 通じない告白なんて、意味があるのだろうか。 「はは、そりゃそうだ。まあ、漱石が言ったっていうのも都市伝説みたいなものだから信憑性はそれほど高くないしね。でも、わかる人にだけわかる言葉っていうのも、ロマンチックじゃない?」 「そういうものですか……」 月が綺麗という言葉と告白がいまいち結びつかない俺は、憮然とした表情で言葉を返す。 「そう言われたら、なんて返すんですか?月が綺麗ですね、私も好きです、ってなんかおかしいですよね?」 「確かに、それじゃあ情緒も何もないね。うーん、この言葉への返し方は何通りかあって、通とされているのは『死んでもいいわ』って言葉なんだけど」 「え?」 月が綺麗ですね。 死んでもいいわ。 私も好きです以上の謎会話だと思うのは、俺がおかしいのだろうか。
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