第八章

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「倉科、電話。弁護士会から」 「はいっ」 あれから、無事に文一に合格した俺は、法学部、法科大学院へと進学した後、司法試験を突破して弁護士となっていた。 とはいえ、まだ駆け出しの新人で、勉強ばかりの毎日だ。 「はい、わかりました。――はい。――はい、では」 電話を切った俺は、事務所のFAXへと向かう。 今日は当番弁護士の待機日である。 当番弁護士とは、被疑者が初回に限り無料で弁護士を呼ぶことができる制度で、タダなのだからみんなもっと活用すべきだと思うのだが、意外に認知度が低い。 警察で「弁護士を呼びますか」と尋ねられても、「知り合いに弁護士がいない」とか「お金がない」という理由で、よくわからなずに「必要ない」と答えてしまうケースが多い。 タダと言っても、俺たち弁護士が収めた会費から報酬は支払われているのだが、費用は安く、出向く先が遠方となれば赤字になる場合もあるという。 そのため、当番弁護士としての職務を嫌う弁護士も少なくないが、若さ故か、俺は燃えていた。 無実の人間が罪に陥れられるようなことがあってはいけない、これは必要かつ重要な制度だ、なんて、ベテランの弁護士に言ったら青いと笑われるかもしれない。 「倉科、当番弁護初めて?」 隣の席から克哉さんの声が飛ぶ。 年は二つ上だが、とても二年の差とは思えないほど大きく見える。
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