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「司法修習中に見学はしましたけど、一人では初めてです」
当番弁護士は登録している弁護士に待機日が割り振られており、必要が生じればこうして弁護士会から事務所に連絡が入り警察署なり何なりへ赴くことになるわけだ。
初めての当番弁護。
正直、朝から気が気じゃなかった。
ふぅと一つ深呼吸をすると、克哉さんがははっと笑った。
「初々しいな」
「からかわないでください」
「からかってないって。可愛がってるの」
「同じことですよ」
「この後やること知ってる?署に電話して、被疑者いるか確認ね」
それくらいわかってますという言葉を飲み込んで「はい」と答えた。
完全に俺で遊んでいるなと思いながら、肩と頬で受話器を挟んで電話のボタンを押す。
発信音が鳴る中、ちらりと隣に視線をやると、克哉さんはすでに自分の仕事に戻ってすごいスピードで手を動かしていた。
少々軽い言動もあるが、総じて優秀な人であることはよく知っている。
口に出したことはないが、憧れの先輩だった。
電話を終え、カバンを手に席を立つと、「頑張れ」と後ろから克哉さんの声が聞こえた。
自分の未熟さが嫌になるような完璧さに、少し嫉妬心を抱いたのは秘密だ。
タイプは全く違うのに、克哉さんを見ていると宗佑さんのことを思い出した。
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