第八章

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電車を乗り継いで、被疑者が勾留されている警察署へと向かう。 資料によると、被疑者は三十七歳男性会社員で、罪状は殺人未遂、犯行日は昨晩となっている。 殺人未遂という言葉に、思わず身が震えた。 これまで携わってきた事件は民事事件がほとんどだ。 刑事事件についての知識は、机の上でのものばかりといっても過言ではなかった。 警察署に到着し、接見の手続きを済ませて面会室に入ると、三十七という年齢よりは随分と老けた印象の痩せた男がガラスの向こうに座っていた。 「こんにちは。初めまして。当番弁護士の、倉科晃多と申します」 緊張をほぐそうと努めて柔らかな笑みを浮かべたが、男性の表情は依然として硬いままだった。 無理もない。 勾留中に平静を保てる人間の方が少ないだろう。 男は斜め下に視線をやりながら「あの」と口を開く。 「彼女は、無事なんでしょうか」 「え」 突然の質問に面食らう。 一拍おいて、彼女というのが殺人未遂の被害者であることに思い至った。 しかし、残念ながら俺はその女性の容態どころか、氏名も事件の詳細も知らないのだ。 「申し訳ありませんが、私は被害女性の状態については把握していません」 俺がそう言って眉を下げると、男性は明らかに落胆したように肩を落とす。 罪状は殺人未遂となっていたが、とても殺意があったとは思えないような男性の様子に俺は心の中で首を傾げた。
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