第八章

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「すみません、私は事件の詳細な情報を持っていないのですが、昨日の事件について教えていただけませんか」 俺の言葉に対し、最上浩二という名のその男は、俺に視線を合わせぬままゆっくりと話し始めた。 「彼女、高橋千佳さんと初めて会ったのは、一ヶ月ほど前のことです。体調を崩して入院したのですが、その時の担当医が彼女でした。一目惚れでした」 正直、一体何の話を始めたのかと思ってしまった。 どうやら高橋千佳というのが被害女性の名前らしいが、この滑り出しでどうして殺人未遂に発展するのか。 痴情のもつれ? 頭の中を数々の疑問符が飛ぶ。 「退院してからも彼女のことが忘れられなかった私は、仕事終わりに彼女の勤める病院へ通うようになりました」 それはストーカー行為をしていたという意味だろうか。 俺は口を挟みたいのをこらえて話の続きを待った。 「毎日、彼女の姿を見ることができるだけで私は満足だったんです。けれど、ある日の帰り道、彼女が男と歩いていたのを見て」 最上さんが悲痛な表情を見せたと同時に、何となくだが話の全貌が見えてきた。
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