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「そちらのエレベーターから十二階まで上がって右手になります」
「どうもありがとうございます」
病院の受付スタッフにお礼を言って、言われた通りにエレベーターホールへと向かった。
腕時計に視線をやると、十八時ちょうどをさしていた。
十八時過ぎって何分だろう。
早すぎたかな。
エレベーターを降りて、病室の外に掲示されたプレートをひとつひとつ確認しながら廊下を進む。
高橋千佳という名前はすぐに見つかった。
ゆっくと病室の扉を開けると、中はカーテンで区切られていた。
もう一度ネームプレートで彼女のベッドの場所を確かめてから、深呼吸を一つ挟んでカーテンを引いた。
「失礼します」
カーテンの向こうのベッドには、一人の女性がいた。
まるで俺が来るタイミングを完璧に把握していたかのように、彼女はベッドの上で起き上がって、俺を待ち構えていた。
俺は、その女性を見て、思わず息を飲んだ。
彼女だ。
一目見て、わかった。
そこにいたのは、九年前、ひたすらに目で追い続けた、あの時の女性だった。
「こんばんは」
彼女は短くそう言った。
口元には小さな笑みが浮かんでいた。
「病院まで押しかけて、申し訳ありません。最上浩二の代理人として参りました、弁護士の倉科晃多と申します」
俺は何とか平静を保ちながら、用意していた名刺を差し出した。
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