第八章

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「あの」 「はい、何でしょうか」 「高橋さんは、最上浩二を恨んではいないんですか」 弁護士として不適切な発言であったことは言うまでもないだろう。 しかし、どうしても聞かずにはいられなかった。 小さく首を横に振った高橋さんは、「恨んではいません」と短く答える。 さらに追求したい衝動に駆られたが、さすがに思いとどまった。 「そうですか。あの、差し支えなければ怪我の状態を教えていただけませんか」 「今日検査したので結果はまだですが、おそらく大きな怪我はしていません」 「そうですか」 俺は安堵を顔に出さないように努めて平静を保った。 「それは何よりです」 運がよかったと言おうとして止める。 俺の言葉じゃない。 「幸運でした」 高橋さんが自分で言った。 しかし、その直後に表情を曇らせる。 俺はたまらず、「どうされたんですか」と尋ねた。 「いえ、私が原因なのに、加護さんにご迷惑をおかけしてしまったのが、申し訳なくて……」 加護さん? 誰だ? 最上さんから聞いた昨晩の話から、レストランに一緒にいたという男性のことだろうと推測した俺は「交際相手の方ですか」と尋ねた。 その質問に興味が含めれていたことは否定しない。 加護という苗字にどこか聞き覚えがあるような気がしたが、思い出せなかった。
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