第八章

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「いいえ、違いますっ」 高橋さんは驚いたように首を振る。 「ただのご近所さんです」 「あ、そうなんですか」 なんだ。 てっきり。 きっと最上さんも勘違いしていたのだろう。 そんなものが事件の引き金になったのかと思うと、何だかやるせない。 「あの、その方は」 「この病院に入院されています」 「え」 意図的に隠したのかどうかはわからないが、その男性の怪我は最上さんの話には登場しなかった。 「それは……」 最上さんが手を出したのだとすればまずいと思ったが、高橋さんは暗い表情のまま「加護さん自ら、飛び出してくださったようです」と言葉を落とした。 不謹慎と思いつつもほっとする。 その男性には悪いが、それならばその怪我の責任は最上さんの負うところではない。 とはいえ少し気になるのも事実だ。 後でその人の病室も訪ねて見ようかと思った。 「あの、では具体的な金額などのお話ですが……」 先ほど作ったばかりの書類を出して、示談についての説明を行う。 まさか今日中に使うことになるとは。 とんとん拍子に話が進むことに対し、ただただ驚いていた。
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