第八章

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とにかく、話はスムーズに進んだのだ。 これから事務所に帰って必要書類を揃えて、明日もう一度最上さんを訪ねよう。 時計に目をやると、面会時間の終わりが迫っていた。 なんだかんだで細かい説明に時間がかかってしまった。 一緒にいた男性のところへ行くのは諦めよう。 そんなことを考えながらエレベーターで一階まで降り、手続きを済ませて病院の外へと出る。 生暖かい風は夏の始まりを感じさせた。 今後の予定を確認しようとカバンから取り出した手帳に目を落としながら歩いていると、前方を歩いていた人の背中にぶつかった。 「あ」 落とした手帳から飛び出たペンが道路を転がる。 高校生だろうか、俺がぶつかってしまった少年は小走りでペンを追いかけてさっと拾い上げた。 「ごめんね、ありがとう」 俺は手帳を拾ってから少年に駆け寄る。 「どうぞ」 少年は振り返ってゆっくりとそれを俺に差し出した。 ありがとうともう一度お礼を言おうとして、少年とばっちり目が合う。 あれ、どこかで。 「あの」 「あ、ごめん」 俺は慌てて少年の手にあるペンを受け取って、それを挿した手帳をカバンの中へと納めた。
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