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「そうだ。昨日、三池先輩に会いました」
最上さんとの面会を終えて事務所に戻ってきた俺は、席に着きながら克哉さんに話しかけた。
高橋さんが軽傷であるという事実に対し最上さんは随分と安堵したようだった。
最上さんには配偶者はいない。
母親はすでに他界しており、父親とも長いこと疎遠になっているらしい。
すでに会社から解雇を言い渡されている最上さんには、罪を軽減するということにあまり意義を見出していないようではあったが、それでも俺の仕事が変わるわけではない。
「三池に?」
「はい。俺三池先輩が克哉さんと親しいの知らなかったので、克哉さんの名前出てきて驚きましたよ」
「会ったって、病院で?」
「はい、そうですけど」
雑談のつもりだったのが、克哉さんが思いの外真剣な表情を見せるので、違和感を覚えた。
昨日の克哉さんとの会話を思い出した俺は、「あの病院に、何かあるんですか」と堪らず尋ねた。
「え」
「あ、いえ。三池先輩も何か言いかけてやめたようだったので」
正確に言えば三池先輩が言葉を濁したのは病院についてではなく克哉さんについてだったのだが、何故だか二人が口を噤んだのは同じ話題についてであったように思えてならなかった。
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