第八章

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「あー、いや、大したことじゃないんだ。俺の奥さん、あの病院に勤めててね」 「あ、そうなんですか」 克哉さんがすでに結婚しているということは知っていた。 俺と二つしか違わないのに子供までいるというのだから驚きだ。 「知りませんでした。奥さんお医者さんなんですか」 「うん、まだ研修医だけど」 「へえ、すごいですね」 純粋な感想だ。 しかし、言わせておいて何だか本当に大したことじゃない。 わざわざ言う必要もないと言われればその通りだが、少なくとも隠すべきことだとは思えなかった。 「奥さん、三池先輩と知り合いなんですか」 「ああ。もともと三池の友達で、試合の応援に来てたところに俺が声かけたんだよ」 「へえ」 ナンパと言っていい出会いに俺は少なからず驚いていた。 克哉さんがそんなタイプだとは思えない。 そんなにいい女なのだろうか。 克哉さんの奥さんを見てみたいという衝動に駆られた。 「三池もわざわざ言うことでもないと思ったんじゃない?」 そんな表情ではなかったと思ったが、それ以上は何も言わなかった。
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