第八章

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「そういや、示談はどうなったの?」 克哉さんが意図して話題を変えたと感じたが、考えすぎかもしれない。 「昨日中に話まとまりました」 「マジ?すげえな」 「はい、俺もびっくりしました」 示談が素早く成立したのは、間違いなく僥倖だ。 怪我が軽かったことも手伝って、容疑を殺人未遂ではなく傷害に持ち込めるのではないかと思えた。 「そりゃ良かった。いきなりの刑事事件で大変だろうけど、まあ頑張れ」 「はい」 そこで会話は終了した。 俺は最上さんに関する書類の作成に入る。 そういえば、高橋さんと食事をしていたのが交際相手ではないということを伝え損ねた。 いや、そもそも伝えた方が良いのだろうか。 勘違いで罪を犯してしまったと知るのは辛いものだ。 しかし、事実なのだから、やはり知るべきでは。 「あ」 「何、どうした?」 加護という名前にどこか聞き覚えがあるような気がしていたが、思い出した。 俺はパソコンで検索エンジンを立ち上げ、【加護 剣道】というワードで検索する。 全日本剣道選手権の最年少覇者・加護将晴の名前はすぐにヒットした。 高橋さんが口にした加護さんというのがこの加護将晴ことを指すのか否かは定かでなかったが、地域と年齢から考えて可能性は十分にあると思われた。
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